創薬AIの強みを考えるとき、独自のデータをどれだけ持っているか、という話になりやすい。
しかし今号では、創薬に関わる企業自身が、公開データを共同で作る取り組みに資金を出している。Isomorphic Labsもその一社だ。共有する基盤に投資することと、そこから独自の事業を生むことは、必ずしも矛盾しない。参加発表 ↗
ここでは、二種類のデータを分けて考えてみたい。
一つは、細胞や免疫がどう振る舞うかを学ぶためのデータ。多くの研究者や企業が繰り返し使い、共通の知識を厚くしていける。
もう一つは、いま治療しようとしている患者に何が起きているかを知るためのデータだ。
どれほど優れた抗原選択のモデルがあっても、それだけで、目の前の患者の腫瘍にどんな変異があるかが分かるわけではない。個別化がんワクチンでは、その患者の検体を測り、設計へ渡す仕事が残る。Tempusとの協業は、その役割を商用化に向けて具体化したものと読める。協業発表 ↗
ここから考えられるのは、公開データが増えると、データの価値が一律に下がるのではなく、価値の生まれる場所が変わる可能性だ。
汎用的な知識は共有し、その知識を使うために必要な患者ごとの測定や、治療設計に結びついた解析で事業を作る。過去のデータを一度売るだけでなく、新しい患者の治療を始める際に必要な仕事を担う形である。
もちろん、その仕事を担えば高い利益が得られるとは限らない。代わりに引き受けられる会社が多ければ価格競争になる。検査件数が増えても、個別化に必要な作業が同じだけ増えるなら、利益は伸びにくい。
それでも、企業を見る問いは少し変えられる。何件のデータを保有しているかだけでなく、治療が一人分増えたとき、その企業にどんな仕事が新たに発生するのか。
公開される知識の上で、患者ごとの判断や製造に必要な情報を提供する。今回の二つのニュースからは、データを囲い込むことだけではない、生命科学の事業の作り方が見えてくる。