研究AIが多数の候補を提案し、外部の実験施設がそれを作って測る。こうした分業が進めば、研究は速くなりそうに見える。しかし、候補と測定結果が増えることと、開発の判断が速くなることは同じではない。

今回の抗体設計の比較では、配列を改良する課題と、候補を選ぶ課題で成績が異なった。また、開発適性の総合基準を通った候補にも、個別の懸念は残っていた。生成、選別、開発判断を一つの能力として扱うと、AIが実際に何を改善したのかが見えにくくなる。抗体設計の比較研究 ↗

一方、実験を利用しやすくする動きも進んでいる。Ginkgo Bioworksは、米国NSFのX-Labsを支援する取り組みで、自動化ラボの利用時間やタンパク質試験のサービスを提供すると発表した。研究者が自前ですべての設備を持たなくても、アイデアを実験へ移す経路が広がる。Ginkgoの発表 ↗

ここから考えたいのは、AI企業だけでなく、AIを買う側の立場がどう変わるかである。

もし異なるモデルの提案を同じ実験条件で比較できるなら、利用者は企業の宣伝やモデル単体の順位だけに頼らず、自分たちの課題で性能を測れる。候補を作る会社と、それを評価する場所が分かれることは、利用者がAIを選び直しやすくなる可能性も持つ。ただし、実験施設にアクセスできるだけで、その比較が成立するわけではない。測定条件と、何を成功とするかを揃える必要がある。

そのとき価値の基準になるのは、提案した配列の本数より、必要な条件を満たす候補にたどり着くまでの総費用と時間だろう。

しかも、使えない候補を落とすだけでは足りない。基準を厳しくしすぎて、有望な候補まで捨てれば機会を失う。少ない実験で、進めるべきものを残し、止めるべきものを見分ける。その判断の質まで含めて評価したい。

以前の記事 ↗では、研究AIの企業が実験や創薬資産へ進む動きを取り上げた。利用者側から見れば、そこで蓄積した知識を、誰が持ち続けられるかも重要になる。

どの候補が、どの条件で失敗したのか。何を変更すると改善したのか。そうした記録を、自社の次の課題に使えるのか。モデルや実験の提供会社を替えても、過去の結果を比較できるのか。ここまで含めて契約やデータの持ち方を考える必要がある。

研究AIの事業には、候補の提案、実験の実施、開発可能な成果の提供という異なる売り物がある。それぞれを同じ物差しで比べる必要はない。ただ、買う側は、自分たちのどの判断が改善するのかをはっきりさせたい。

AIが答えを増やすほど、その答えを評価する基準の価値も上がる。次の競争は、候補を出す技術だけでなく、利用者がその成果を比較し、開発へ進む判断を下せるところまで含めて起こるのではないか。