実験では、細胞の育て方、刺激の量、測定する時点を揃える。それによって、薬の効果を比較しやすくなる。

一方、患者の反応の違いが周囲の炎症や組織の状態から生じているなら、条件を揃える過程で、知りたい差まで消してしまうことはないだろうか。

今回の胎盤研究では、同じ母体で育つ胎仔でも、発達への影響は一様ではなかった。影響を受けた胎仔では胎盤にも変化があった。同じ母体にいるという条件だけでは説明できない違いが、胎仔ごとに生じていた。原著 ↗

患者由来の細胞を使った薬の評価にも、似た問いを向けられる。患者が違えば、細胞の性質も違う。しかし、その細胞を同じ培養条件に置いたとき、体内で薬の反応を分けていた条件まで残るとは限らない。

ここで区別したいのは、測定の再現性と、反応の均一性である。手順のぶれは小さくする必要があるが、すべての検体が同じように反応することを目指す必要はない。違いが繰り返し現れるなら、それ自体が調べる対象になる。

例えば今後の実験として、複数の患者に由来する線維化モデルで、炎症刺激の条件を変えながら薬を試すことが考えられる。平均の効果が似ていても、多くの検体に小さく効く候補と、一部に強く効く候補では、その先の開発方針が違う。後者では、反応する条件を見つけることが、次の試験で対象とする患者を考える手掛かりになる。

そう考えると、効かなかった検体の扱いも変わる。培養や測定の不備なのか、それとも患者の反応差を捉えたのか。両者を切り分けられなければ、重要な手掛かりを実験上の失敗として捨ててしまうかもしれない。

事業として価値が生まれるのは、その見分け方を蓄積できたときだろう。実験モデルの反応と患者の治療経過を対応させ、別の患者でも関係が成り立つかを確かめる。そこまで進めば、薬効を測定するサービスから、候補をどの患者群で開発するかを考えるサービスへ、仕事の範囲が広がる。

薬が効いたという結果だけでなく、どの条件で効かなくなったか。その境界を説明できることが、次の開発判断に使えるデータの価値になるのではないか。