Ai2とProvidence Swedish Cancer Instituteの共同研究には、発見の内容と同じくらい興味深い計画が記されている。科学AI「AutoDiscovery」をProvidenceのクラウド環境に導入し、施設側の研究チームが運用するというものだ。保護された研究・臨床データを、施設の管理下で扱おうとしている。 Ai2の発表 ↗
研究機関が便利なAIを一つ導入する。それだけの話にも見える。しかし、科学AIの価値がどのように高まっていくかを考えると、この導入方法にはもう少し大きな意味がありそうだ。
今回の研究は、乳がんの公開データの解析から始まった。そこで見つかった小葉がんの免疫に関するシグナルを、研究者が別の患者データや腫瘍標本で調べている。免疫療法の効果を示した臨床試験ではないが、計算上の手掛かりを、さらに研究を進められる問いへと具体化した事例ではある。 共同研究の概要 ↗
独占的なデータがなければ研究を始められない、というわけではない。出発点には公開データがあった。その先に必要だったのは、何が生物学的に意味を持つかを判断できる人と、それを確かめるための材料だった。
Ai2の振り返りでも、統計的には意外な結果であっても、生物学や臨床の観点では追究する価値の乏しい候補があったと述べられている。研究者の知識は、探索の方向を修正するうえで重要だったという。 Ai2の研究報告 ↗
こうした関わり方は、科学AIを使う研究機関の役割も変えるかもしれない。
研究者の仕事は、AIの回答を評価することだけではない。どの問いを追うかを決め、検証に必要な材料を用意し、結果に応じて探索を修正する。この過程を担う研究機関は、科学AIの具体的な用途をつくる共同開発の相手にもなりうる。モデルの提供者だけでは、研究を最後まで進められない場合があるからだ。
この関係を考えるうえでは、Empire AIのような公共計算資源の取り組みも参考になる。Simonsの基礎科学向け公募では、代表者に加盟機関への所属条件があり、外部の研究者も一定の条件で共同研究に参加できる。計算能力を整備することと、それを使う研究チームをどう組むかは、別々の問題ではない。 公式公募 ↗
計算資源も、対象分野の知識も、試料や検証の手段も、一社、一研究室ですべて揃える必要はない。それぞれを持つ組織が共同研究を組むことが、科学AIの普及を後押しするのではないか。
そう考えると、次の事業機会も違って見える。モデルの利用権を販売するだけでなく、研究機関への導入、データを利用する環境の整備、検証を担う共同研究先の確保まで支援する。実際に研究を進められるようにする、そうした仕事に対価が生まれる可能性がある。
これは、大きな病院や研究機関が必ず有利になるという予測ではない。小さな研究グループでも、特定の現象を見抜く知識や独自の測定方法が、共同研究に欠かせないものになることは考えられる。重要なのは規模だけでなく、AIの出した候補を確かめるために何を提供できるかだ。
今後の提携発表では、導入したAIの名前よりも、提携の中身を見ていきたい。誰が研究課題を決め、誰が検証し、その結果が次の探索にどう使われるのか。施設内への導入が運用負担を増やすだけなら、この見方は修正する必要がある。
科学AIの次の商機は、有望な候補を見つけることに加えて、それを検証する人や材料を確保し、実際の研究まで支援するところにありそうだ。