血圧の調節に関わる酵素ACEについて、精神病症状との関連を調べた研究が報告された。
Johns Hopkinsの研究チームは、発症初期の患者で、血清や脳脊髄液中のACEタンパク量が少ないことを示した。治療抵抗性と分類された患者では、血清中の量がさらに少なかった。一方、血清の一定量当たりで測定した酵素活性には、患者群と対照群の有意な差がなかった。原著論文 ↗
ACEの量が少なければ、その触媒機能も弱くなっているとは単純に言えない。研究者らは、従来知られていた酵素としての機能とは別の役割が、病態に関係している可能性を挙げている。ただし、その役割を特定したわけではない。研究機関の解説 ↗
ACEと抑うつの関係は、すでに研究されている。慢性ストレスを与えたマウスでは、ACE阻害薬カプトプリルが抑うつ様行動を改善し、ブラジキニンを介した神経機能の変化が関係するという報告がある。これは、ACEの非酵素的な役割を示した結果ではない。マウスでの研究 ↗ ヒトでも一部のACE阻害薬の使用とうつ病発症率の低さが関連した観察研究がある一方、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用に保護的な関連を認めなかった研究もある。うつ病治療としての有効性が確立したわけではないが、ACEの脳での役割を調べる実験的な土台はある。デンマークの観察研究 ↗、高齢の高血圧患者を対象とした研究 ↗
ここから検討したいのは、ACEのタンパク量、触媒活性、局在を切り分けたとき、神経細胞や回路にどのような変化が生じるかだ。
例えば、患者由来の細胞でACEの量を戻すと、細胞の状態は変わるのか。触媒活性を失わせたACEでも同じ変化が起きるのか。反対に、タンパク量を保ったまま触媒活性だけを変えるとどうなるのか。膜上などの局在や、相互作用する分子の違いも検討対象になる。
こうした問いは、細胞だけでなくマウスでも検討する価値がある。ACEの量や機能の変化が、神経回路の活動や行動指標にどう影響するかを調べることで、患者で見つかった関連を、因果関係の検証へ進められる。その際には、血圧や運動量の変化による影響も区別する必要がある。これは今回の研究で実施された実験ではなく、結果を踏まえた次の研究の提案である。
ACEを標的とする降圧薬があることは、この検討の手掛かりになる。しかし、既存薬で触媒活性を抑えることと、タンパク量や局在を変えることは同じではない。あるACE阻害薬が症状を改善しなかったとしても、それだけでACEを病態研究の対象から外す理由にはならない。改善が見られた場合にも、どの作用によるものかを確かめる必要がある。
なお、今回の対象は発症初期の精神病であり、うつ病に対する降圧薬の治療試験ではない。また、血清で活性の差がなかったことから、脳内の特定の細胞や部位でも触媒機能が変わっていないとは言い切れない。
今回の結果が与えるのは、ACE阻害薬が効くかどうかという問いだけではない。タンパク量と測定された活性が一致しない理由を調べることで、まだ捉えられていないACEの役割に迫れるのではないか。患者で得られた観察を、細胞やマウスで検証する根拠として、この研究を位置づけたい。
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v1 ·ACEは減っている。では、どの機能が変わったのか
初期精神病でACEタンパク量低下と治療抵抗性との関連を報告。一方、血清の単位体積当たりの酵素活性に有意な群差はなかった。
- 患者で関連を観察確認済み
- 機能を分けて検証未確認
- 病態との因果関係未確認
追っている仮説・見直す条件
ACEの量と測定活性の不一致を調べることで、神経機能に関わる未解明の役割を特定できるかもしれない。
見直す条件:分離操作で予測した神経機能変化が再現せず、関連が交絡や末梢効果で説明される場合は仮説を見直す。
横断的関連であり、因果機能やうつ病への薬効を示した研究ではない。カプトプリルの既報もACEの非酵素機能を証明していない。
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出典・参考資料
この版の作成時に確認した公開資料。リンク先はその後更新される場合があります。
- ACE protein abundance, activity and early-stage psychosis ↗JAMA Psychiatry · 2026-09-09
- Captopril and depressive-type behaviors: bradykinin-dependent mTORC1 activation ↗Biological Psychiatry · 2020-02-18
- Antihypertensive drugs and depression: nationwide observational study ↗Hypertension · 2020-08-24
- ACE inhibitors / ARBs and depression risk in older people with hypertension ↗Journal of Psychopharmacology · 2022-04-07
- ACE and treatment-resistant psychosis: institutional explanation ↗Johns Hopkins Medicine · 2026-10-12
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