新しい候補が見つかっても、それだけでは使える技術にならない。効く細胞ができても、必要な場所へ届けられなければ治療にはならない。
今号で目に留まったのは、この「その先」の仕事が、独立した投資対象になっていることだ。
BoSSが開発しようとしているのは、新しい治療薬ではない。細胞を常温で保存し、必要なときに機能を戻すための材料と工程である。うまくいけば、一つの治療だけでなく、複数の細胞製剤に共通する制約を減らせる。BoSSの概要 ↗
科学AIにも、似た動きがある。AIが面白い配列や標的を挙げた後、それを実験できる形にし、条件をそろえて測り、次の開発に使える結果へ変える仕事だ。
その仕組みを研究者ごとの手作業に任せず、市場として組み立てようとする計画もある。ARPA-Hが今年5月に発表したIGoRは、AIによる実験設計、共通の実験手順、実験を引き受ける研究施設のネットワークをつなごうとしている。まだ構築を目指す段階だが、公式FAQは受託研究機関の参加や手作業を含む実験も想定し、提供するサービスへの対価を明示している。IGoRの計画 ↗、公式FAQ ↗
実験や物流が重要なのは、昔から同じである。変化の兆しは、その仕事を一つの研究や製品の付帯業務としてではなく、多くの研究が共通に使う仕組みとして作り直そうとしている点にある。
ここで「AIが普及すれば実験会社が儲かる」と結論づけるのは早い。依頼された実験を安く速く行う事業と、その結果から開発資産を作り、権利を持つ事業では、利益の取り方もリスクも違う。「AIで解けるなら、何を売るのか」 ↗で取り上げたSchrödingerは、後者にも踏み込んでいる。
もし候補を挙げる費用が下がり、候補だけが大量に供給されるようになれば、研究を制約するのは別の部分になる。実際に作れるか、機能を示せるか、保存できるか。その制約を解く仕事に、相対的に大きな価値が生まれる可能性がある。
この見方に立つと、次に強くなるのは必ずしも、最も多くの候補を出す会社ではない。候補を受け取り、他者が開発や導入を決められる状態まで仕上げられる会社かもしれない。
ただし、設備を持つだけでも十分ではない。どの性能まで引き受け、どんな条件で成果を渡し、どこまで権利を残すか。その契約の設計まで含めて、事業の違いになる。
発見の価値がなくなるのではない。発見した後の仕事を誰が担うかが、以前よりはっきり問われ始めている。 今号の投資と提携のニュースから読み取りたいのは、その兆しである。