肺がんのSAFFRON試験では、オシメルチニブ治療後に進行し、METの高い発現や増幅が確認された患者に、MET阻害薬を加えることで利益が得られた。ここから別の問いが生まれる。仮に同じ変化を画像上の進行より前に捉えられたら、その時点で薬を加える方が、進行後に加えるより有利なのだろうか。SAFFRON原著 ↗

先に動くことには理屈がある。待っている間に別の耐性機序も加われば、最初に見つけた経路を抑えるだけで病勢を制御できる期間は短くなるかもしれない。一方、分子レベルで変化が見えても、現在の治療が病勢を抑えている間は、その効果を使い続けながら、新しい薬の副作用を先送りできる。どちらの利益が大きいかは、治療を変えた後まで追わないと分からない。

既刊で取り上げた乳がんのSERENA-6は、この違いを考える材料になる。両群ともESR1変異を検出した時点から計測し、最初の無増悪生存期間の中央値は、早期にカミゼストラントへ切り替えた群で16.8か月、従来薬を継続した群で9.2か月だった。次の治療後の増悪または死亡までを同じ起点から測っても、25.7か月対19.1か月だった。差は次の治療まで追っても残った。ただし、継続群の後続治療は進行時の診療判断に委ねられており、同じ薬を進行時に使う場合と比べて、どれだけ前倒しに価値があったかは、この結果から切り分けられない。既刊の乳がん記事 ↗・SERENA-6の追跡解析 ↗・FDA審議録 ↗

早い検出と早い治療の価値が分かれた実例もある。卵巣がんの再発を対象にした無作為化試験では、血中マーカーCA125が上昇した時点で化学療法を始めても、臨床的な再発を待って始める場合と比べ、全生存期間の改善は示されなかった。乳がんとは病気も薬も違うが、検査が先に変化を捉えたとき、治療を前倒しする利益には独立した検証が要ることを示す例だ。卵巣がんの無作為化試験 ↗

米FDAがカミゼストラントの迅速承認に際して求めた確認試験では、変異を検出した時点で使う戦略と、画像上の進行まで待って同じ薬を使う戦略を比べる。追うのは、各治療戦略が行き詰まるまでの期間と全生存期間だ。先に薬を使った群で最初の増悪が遅れるだけなら、患者にとっては、次の薬を早く使った分の利益かもしれない。治療戦略全体で使える時間まで延びるなら、早く介入すること自体に価値がある。FDA迅速承認書、確認試験の要件 ↗

進行悪性黒色腫のCheckMate 067では、ニボルマブとイピリムマブの併用群の10年全生存率は43%だった。別の解析では、割り付けられた治療を終え、次の全身治療を始めずに5年時点で生存していた人は併用群の39%だった。治療を終えた後も副作用が続く期間を、研究者らは分けて集計している。CheckMate 067の10年追跡 ↗・次の全身治療を受けずに過ごせた期間の解析 ↗

治ることを願いながら、次の治療がどれだけ長く効くかを考える。治癒が難しい進行がんでは、治療の進歩が、そういう形で現れることがある。そこには、やはりもどかしさが残る。

それでも、同じ数か月をどう過ごせるかには違いがある。症状が落ち着いて、仕事や家での生活を続けられたのか。次の薬を始めずに過ごせたのか。あるいは、早く薬を替えた分、通院や副作用の負担も早く始まったのか。試験で増悪までの時間を追うとき、その間に患者がどんな日々を送れたかも知りたい。

耐性を早く見つけたとき、薬を先に使うことで、待ってから同じ薬を使う場合より、患者が自分の望むように過ごせる時間は増えるのだろうか。そこまで分かって初めて、治療を前倒しする意味を、患者の側から考えられる。