前号では、発見した候補を実験や実装へ進める仕事に、資金が向かう動き ↗を取り上げた。今号では、その先にある問題が見えてくる。その仕事を引き受けた会社は、何を対価として受け取れるのか。
遺伝子治療の前処置を開発するHansaは、自社薬の代金だけでなく、その前処置によって投与可能になった遺伝子治療の売上からもロイヤルティを受け取る契約を結んだ。治療本体の所有者ではなくても、治療を可能にした貢献を、成功時の収益につなげようとしている。HansaとSareptaの契約 ↗
ここで重要なのは、仕事の量だけで対価を決めていないことだ。何時間働いたか、何回測定したかとは別に、その技術がなければ成立しなかった治療の価値を、契約に織り込もうとしている。
治験を支えるAIにも、同じ問いを向けられる。
既存の作業を安く代行するなら、対価は作業費の範囲で考えられやすい。一方、患者が少な過ぎて試験できなかった領域で、受け入れられる試験設計を成立させるなら、その貢献は単なる効率化とは違う。薬の開発可能性そのものを変えるかもしれない。
ただし、その価値が自動的に薬の権利として返ってくるわけではない。SURPASSも、参加するAI企業へ薬剤の権利を一律に与える制度ではない。費用、責任、データの利用条件、成功時の取り分を、別途合意する必要がある。ARPA-Hの契約・応募FAQ ↗
ここから立てたい仮説は、研究支援企業の成長余地は、作業をどれだけ自動化できるかだけでなく、それまで実行できなかった開発を可能にできるかによっても変わる、ということだ。
もちろん、すべての会社が薬の権利を持つ必要はない。開発失敗のリスクを負わず、複数の顧客へサービスを提供する方が適した事業もある。
大切なのは、自分たちの技術が何を可能にしたかを見定め、その貢献に合う対価を選ぶことだ。技術の仕事は実験室で終わらない。その価値をどの契約に結び付けるかまで、事業の設計に含まれている。