科学AIの予測を創薬に生かすには、実験で確かめる必要がある。その費用を誰が負担し、何に対価を払うのか。9月に発表されたGinkgoの二つの提携とSchrödingerの新会社設立は、モデルの利用料だけでは見えてこない、収益の得方の違いを示している。

実験データを外から調達する

Ginkgoは2026年9月16日、Eli Lillyの創薬AI基盤TuneLabとの契約を発表した。参加企業に、小分子のADME(吸収・分布・代謝・排泄)や抗体の開発適性を評価する実験サービスを提供し、機械学習に使いやすい形式で結果を返すという。AIの予測を実験で検証するためのサービスだ。Ginkgo発表・配信転載 ↗

事業として見れば、AIの利用料とは別に、予測を実験で確かめるサービスの対価を得る形だ。実験を繰り返す顧客が増えれば受注機会も増える一方、試薬・装置・人手の費用もかかる。追うべきはモデルの利用者数だけでなく、継続発注と実験一件あたりの原価だろう。今回の価格や契約規模は公表されていないが、利用が広がるほど利益も増えるのかを考える手掛かりになる。

自律実験ラボを社内に設ける

その前日の9月15日には、GinkgoがNovoの米国Waltham新研究拠点で自律実験ラボを構築する企業に選ばれたと発表した。ロボット設備のRACと統合ソフトウェアCatalystを組み合わせる。従来の外部研究支援から、Novoの社内ラボへ設備・ソフトを提供する関係に広がったという。これは選定の発表であり、稼働開始の報告ではない。Ginkgo発表・無編集転載 ↗

こちらは個々の実験を受託するのではなく、顧客が実験を続けるための設備とソフトを提供する。設備代だけを得るのか、稼働後の保守やソフトの利用料も積み上がるのかで、事業の見え方は変わる。一般に設備販売では導入件数、継続サービスでは契約更新が重要になるが、今回の対価の内訳は不明だ。買う側も、外注費と比べるには、導入額だけでなく維持費や装置を十分に稼働させられるかまで考慮する必要がある。

創薬資産から将来の対価を得る

もう一つの形が、Schrödingerの9月9日の発表だ。同社は投資会社と共同設立したTectoraに初期の小分子創薬プログラム二つを拠出した。対価として株式を取得し、将来のマイルストーン・ロイヤルティを受け取る権利も得た。Tectoraの5,500万ドルの資金調達は、Schrödingerの売上ではない。プログラムは今後、臨床候補へ進める計画だ。Schrödinger公式発表 ↗

これはソフトの利用に料金を課すこととは違い、創薬の成果次第で将来の収益につながる事業だ。持分比率や支払い条件は公表されていない。サービスの受注残と同じように将来売上へ足し込まず、開発段階と必要な資金を合わせて追いたい。

三つの事業を分けて読む

案件提供するもの・得るもの次に確かめたい数字
Ginkgo–TuneLab実験サービスと測定データ発注件数、単価、再発注率
Ginkgo–Novo社内ラボの設備・ソフト導入額、稼働率、継続収入の割合
Schrödinger–Tectora創薬プログラムに対する株式・条件付き収益持分比率、支払い条件、開発費

表の数字はいずれも今後の確認項目であり、今回の発表で開示された実績ではない。

研究者や事業担当者にとっても、この区別は取引先を選ぶ際に役立つ。外注なら納期と再実験の条件、ラボ導入なら維持費と運用体制、共同創薬なら成果と権利の配分を比べたい。「AIとの提携」という見出しより、何を受け取り、何にお金を払い、どこまで自ら負担する契約なのか。その違いを見ることで、技術への期待を具体的な判断につなげられる。

この版での次の確認点

再発注率、ラボの稼働・継続収入、創薬資産の権利と開発費。

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出典・参考資料

この版の作成時に確認した公開資料。リンク先はその後更新される場合があります。

  1. Ginkgo発表・配信転載 ↗www.tmcnet.com · accessed 2026-09-23
  2. Ginkgo発表・無編集転載 ↗www.marketscreener.com · accessed 2026-09-23
  3. Schrödinger公式発表 ↗ir.schrodinger.com · accessed 2026-09-23

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