昨日と今日で、同じものを見たときに活動する神経細胞の組み合わせが変わっていたら、脳はそれを同じものとして扱えるのだろうか。

神経科学では、同じ刺激や課題に対する活動パターンが、時間とともに変わる現象を「表現ドリフト」と呼ぶ。これは、記憶や認識を特定の細胞の固定した活動として考えると、気になる現象である。情報の表し方が変わるなら、それを受け取る側は何を頼りに意味を読み続けるのか。

10月6日に発表された研究では、柔軟な電極を使って、マウスの視覚野や海馬の神経細胞を数か月にわたり追跡した。長期記録では、電極と組織の位置関係が変わり、別の細胞を測ってしまうことが問題になる。研究者たちはこの影響を抑え、同じ細胞の反応そのものがどう変化するかを調べた。原著論文 ↗

マウスに同じ映像を繰り返し見せても、神経活動は日をまたぐと変わっていた。しかし、多数の細胞の活動を少数の座標で表し、記録日ごとの座標を対応づけると、映像のどの部分に対する反応かという時間情報の読み出しを改善できた。

個々の細胞の反応は同じでなくても、集団の活動には、日をまたいで対応づけられる関係が残っていたのである。

ここで大切なのは、最初の日の読み方を、そのままずっと使えたわけではないことだ。公開された解析コードでは、以前の日と新しい日の両方の反応を使い、同じ映像の時間位置に合わせて対応を求めている。変化を無視しても読めたのではなく、変化に合わせて読み方を調整すると、取り出せる情報があった。著者公開の解析コード ↗

この違いは、脳の働きを考えるうえでも重要だ。

一つの可能性は、情報を受け取る側の回路が、相手の変化に合わせて読み方を少しずつ学び直していることである。この場合、記憶や認識の一貫性は、ある場所に固定された状態というより、回路同士の対応が保たれることに支えられる。

もう一つは、活動の変化が一様ではないという可能性だ。大きく変わる成分がある一方で、行動に必要な区別は保たれているかもしれない。観測する細胞や解析方法によっては変化が目立っても、脳が実際に利用している情報は、それほど変わっていないことも考えられる。

この二つは同じ説明ではない。前者では、読み手の更新が重要になる。後者では、変わらず利用できる関係がどこにあるかが問題になる。

実験の解析では、同じ映像を再生することで、二つの日の活動を対応づけられた。では、脳自身は何を共通の手掛かりにしているのだろう。繰り返す経験や、行動の結果、報酬は、その候補になるだろう。情報の表し方と読み方が両方変わるなら、両者が食い違わないようにする学習が必要になる。

人工冬眠と記憶を考えた記事 ↗では、神経系の状態が大きく変わっても、何が残れば同じ記憶と言えるかを論じた。今回は、特殊な状態だけでなく、日々変わる活動の中で同じ情報を使い続ける問題として、この話を捉え直せる。

今回読み出したのは刺激に関する情報であり、長期記憶の保持機構を直接示した研究ではない。それでも、次に調べたいことは明瞭になる。ある細胞が昔と同じように活動するかだけでなく、集団の中の区別がどう保たれ、それを使う回路がどう追従するかである。

記憶が失われたように見えるときも、情報そのものが失われたのか、読み出す側との対応が崩れたのかでは、意味が違う。変化する脳の中で何が安定しているのかを、細胞の状態だけでなく、情報を受け渡す関係として調べる余地がある。

この版での次の確認点

読む側の適応と安定した情報成分を区別し、両者の対応を保つ学習や、その破綻を調べる。

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出典・参考資料

この版の作成時に確認した公開資料。リンク先はその後更新される場合があります。

  1. Realignment of representational drift in mouse visual cortex via flexible electrode arrays ↗Nature Biomedical Engineering · 2026-10-06
  2. Author-released code for neural representational drift analysis ↗Study authors / Zenodo ·

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