自閉スペクトラム症、ASDの成り立ちを理解するため、遺伝的な要因とともに、胎児期の環境が神経発達にどう関わるかが研究されている。その一つが、妊娠中に起こる母体の免疫反応だ。動物実験では、母体への免疫刺激が、子の脳発達や成長後の行動に影響する経路が調べられてきた。背景となる研究 ↗

今回のCold Spring Harbor Laboratoryの研究も、この流れにある。研究者たちが着目したのは、同じ母体で育つ胎仔でも、影響を受ける個体と受けない個体がいる理由だった。ASDの診断が男児に多いことも、性差に注目する背景にある。研究機関の説明 ↗

ただし、今回直接調べたのは、出生後のASD関連行動ではなく、免疫刺激から24時間以内に生じる胎仔と胎盤の変化である。その違いを追うことで、神経発達へ影響が及ぶ経路の一部を探ろうとしている。原著 ↗

妊娠マウスに、ウイルス感染時の免疫反応を模す物質を投与したところ、24時間以内に、およそ3割の胎仔で体重や感覚器などの発達異常が認められた。この条件で異常を示したのは雄の一部で、他の雄や雌には同じ変化が見られなかった。

影響を受けた胎仔では、胎盤にも変化があった。母体側と胎仔側の境界を構成する細胞などで炎症関連の遺伝子発現が増え、胎盤の構造が乱れ、羊水中に免疫細胞やサイトカインが蓄積していた。原著 ↗

この結果を読むうえで重要なのは、胎盤が単に炎症を通過させる壁ではないことだ。

以前のマウス研究では、胎盤の栄養膜細胞でIL-6の受容体を欠損させると、母体の免疫刺激による胎仔脳の炎症や、成長後の行動・小脳の異常が抑えられた。胎盤で起こる反応が、その先の脳への影響を左右していた。2017年の研究 ↗

今回の結果を重ねると、次の問いが浮かぶ。炎症にさらされても胎盤の機能を保てる個体と、そこから崩れてしまう個体は、何が違うのか。

免疫反応を抑える能力なのか。組織構造を維持する働きなのか。発達の進み方の違いなのか。性別はその手掛かりになるが、雄であることだけで結果が決まったわけではない。

同じ母体で育っていても、胎仔が置かれる局所的な環境や、その刺激への応答は同じとは限らない。

なぜ、ある胎盤は機能を保ち、別の胎盤では炎症と構造の乱れが生じるのか。その違いを説明できれば、母体の炎症の有無だけでは見えてこない、発達への影響の分かれ目に近づける。

神経発達の個体差を考える際に、脳そのものの性質と、それを取り巻く組織の応答をどう結びつけるか。今回の研究から膨らませたいのは、この問いである。

この版での次の確認点

胎盤の炎症調節、組織構造の維持、発達時期の違いを区別し、局所条件の操作で胎仔への影響が変わるかを調べる研究。

テーマの現在地・更新履歴へ →

出典・参考資料

この版の作成時に確認した公開資料。リンク先はその後更新される場合があります。

  1. Placental IL-6 signaling and maternal immune activation: earlier mouse study ↗PubMed / peer-reviewed study ·
  2. Maternal-fetal immune conflict and heterogeneous fetal outcomes in mice ↗Science Advances / PubMed · 2026-09-16
  3. Research-institution explanation of the placental immune-response study ↗Cold Spring Harbor Laboratory ·

READER DISCUSSION

この話から、何を考えますか。

疑問、別の見方、確かめたい出典。短いひと言からでも歓迎します。

コメントは編集部の確認後に公開します。コメント・いいね・通報は18歳以上の方を対象とし、ログインが必要です。公開名は自由に決められます。常時の確認ではありません。 参加ルール

読者の声を読み込み中…

今号のほかの記事

目次 →