AIで治験を効率化するという提案は、実際の試験で使えるところまで進んで初めて、製薬会社が購入できるサービスになる。予測精度だけでなく、統計解析、施設の運営、患者の安全性、規制当局への説明までカバーする必要がある。

米国ARPA-Hが9月30日に公募を始めたSURPASSは、その実証に公的資金を投じる取り組みだ。複数の薬を継続的に評価する臨床試験の基盤に、予測モデル、試験中のデータ解析、運営業務の自動化を組み込む。薬ごとに試験体制を一から作り直す負担を減らし、後から参加する企業も利用できる仕組みを目指す。SURPASS公式 ↗

AI企業にとって、製品を改良し、顧客に示せる実績を得る機会になることは確かだ。ただし、ソフトのデモを評価してもらうだけの公募ではない。臨床・統計・規制対応の専門家と組み、実際の試験を動かすことが求められる。

公募文書では、最初の三つの治療群について試験費用の全額支援を検討し、その後は支援を減らす設計が示されている。最初の利用者を公費で支え、その実績を使って、後続の製薬会社が費用を払う仕組みへ移行させたいという意図が読み取れる。公募文書の公開コピー ↗

薬の権利と、AIの権利は別に考える

ここで気になるのは、試験を支えるAI企業が、評価する薬の権利まで得られるかという点だ。

確認した公募文書には、参加した技術提供者へ薬の開発権や販売収益を自動的に配分する定めは見当たらない。ARPA-Hの一般方針でも、知的財産の扱いは契約交渉で決めるとされている。ARPA-Hの契約・応募FAQ ↗

薬に関する既存の特許や販売権と、試験の過程で改良するソフト・モデルの権利、患者データの利用権は、それぞれ別の問題である。試験に関与したからといって、そのデータを他社向けのモデル学習へ自由に使えるわけでもない。SURPASSでは、データへのアクセス、秘密保持、公表、モデル管理の条件を定めることが求められている。公募文書の公開コピー ↗

想定できる事業は、まず試験設計、解析、運営を引き受け、その対価を得る形だ。薬の開発費や失敗リスクも分担し、成功時の権利や収益を得る形に進むなら、製薬会社との別の合意が必要になる。

この違いは、研究支援AIと共同創薬の事業を扱った記事 ↗ともつながる。ソフトを提供することと、そのソフトで開発する薬の権利を持つことは、技術的につながっていても、契約上は同じではない。

公的な実証が、次の契約につながるか

SURPASSには、成果の一部を他の開発にも利用できるようにする考え方がある。例えば、モデルを規制当局への申請で参照するための資料は、所定の確認を経て少なくとも一つ公開する。一方、追加の資料には知的財産を保護するための非公開も認める。患者データやモデルのすべてを公開するという意味ではない。公募文書の公開コピー ↗

この制度から育つのは、薬を所有するAI企業とは限らない。試験の立ち上げを早め、限られた患者数から判断に使える結果を得て、その過程を規制当局へ説明できる会社も、事業を成立させられる可能性がある。

その場合、顧客が買うのはAIという名前ではなく、自前で組み立てるより確実に動く試験の仕組みだ。宣伝効果はあるだろう。しかし、公募の本当の事業価値は、最初の実証で得た方法と経験を、次の顧客が対価を払うサービスにできるかにある。

この版での次の確認点

採択チーム、臨床試験の実施状況、後続スポンサーの費用負担、モデル・患者データの利用条件。

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出典・参考資料

この版の作成時に確認した公開資料。リンク先はその後更新される場合があります。

  1. SURPASS公式 ↗arpa-h.gov ·
  2. 公募文書の公開コピー ↗everglade.com ·
  3. ARPA-Hの契約・応募FAQ ↗arpa-h.gov ·

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